戦争と人間 第一部「運命の序曲」(1970)

「人間の条件」の原作者、五味川純平が現在なお執筆中の同名大河小説の映画化で、第二次大戦突入期の満州を舞台にくりひろげられる複雑多岐な人間群像ドラマ。脚本は、山田信夫、監督は、山本薩夫。撮影は、姫由真佐久が担当。

監督:山本薩夫
出演:滝沢修、芦田伸介、高橋悦史、浅丘ルリ子、十八代目中村勘三郎、佐藤萬理、二谷英明、三条泰子、水戸光子、青木義朗、高橋英樹、三國連太郎、高橋幸治、松原千恵子、石原裕次郎、田村高広、加藤剛、山本学、山内明、岸田今日子、栗原小巻

戦争と人間 第一部「運命の序曲」(1970)のストーリー

昭和三年。新興財閥伍代家のサロンでは、当主伍代由介(滝沢修)の長男英介(高橋悦史)の渡米歓送会が開かれていた。その場には由介の実弟喬介(芦田伸介)、由介の長女由紀子(浅丘ルリ子)、次男俊介(十八代目中村勘三郎)、伍代家の女中頭で由介の妾であるお滝(水戸光子)、部下の矢次(二谷英明)など一族身内の者のほかに、金融家市来善兵衛(清水将夫)、陸軍参謀本部の佐川少佐(青木義朗)、その部下の柘植進太郎中尉(高橋英樹)など常連客が招かれていた。話題は期せずして、張作霖打倒のため蒋介石が北伐をはじめた満州の情勢に集まった。関東軍を出兵させ張作霖軍を武装解除させるべきだという強硬論者は、英介と喬介であった。とくに“満州伍代”と呼ばれる喬介は関東軍参謀河本大佐等強硬派と気脈を通じ、より大きな利権を求めて画策していた。その両腕が、匪賊との生命がけの交渉によって運送ルートを作りあげた男、高畠正典(高橋幸治)と阿片売買やテロルなどに暗躍する凶暴な男、鴨田駒次郎(三國連太郎)であった。喬介や英介の意見に反対を唱えたのは、まだ中学生の俊介であり、それに無言の支持を示したのは自由主義者の矢次だった。由紀子は妻帯者である矢次を愛していたが、にえきらぬ矢次の態度は彼女を若い柘植中尉との新たな恋に飛び立つのだった。

出兵のための奉勅命令が得られないあせりから関東軍は列車爆破によって張作霖を暗殺するという挙に出た。だがその陰謀は張作霖の息子張学良と蒋介石の和解、総一抗日勢力の強化という方向に事態を動かした。喬介は新参謀石原中佐の依頼で、運送隊の中に偵察特務員を潜入させたが、匪賊はその報復に、高畠の愛妻、素子(松原智恵子)を連れ去った。そして彼女はふたたび帰って来なかった。満州の状勢は悪化の一途をたどった。昭和六年九月、関東軍は奉天郊外の柳条溝付近で、自らの手で満鉄列車を爆破、それを張学良の謀略挑戦であるとして、一斉攻撃を開始した。いわゆる満州事変の始まりであった。この戦争は“死の商人”たる伍代家の利益を飛躍的に増大させた。さらに大陸進出を意図する由介は、アメリカ帰りの英介をも満州に送りこんだ。戦闘は拡大し各地に飛び火した。金沢の師団にいた柘植も出征することになった。出発の前日、由紀子がたずねてきた。二人は何も特別なことは語らなかった。この運命のあわただしい転換を前に、愛の約束は意味のないように思えた。巨大な、そして不吉な暗雲をはらんだ昭和史のあゆみは次第にその速度を早めつつあった。由紀子と柘植のみならず、無数の人間たちの運命が、そのなかで翻弄され、屈折を余儀なくされていった。

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